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●●大貫 綾の場合●●
湊に入社してからの9年間。
入社当時こそ男性社員にちょっかいを出されることもあったが、あたしの余りにも怯えたような重苦しく露骨な態度にすぐに近付く人はいなくなった。
それからの9年間は幸せだった。
でもまさかこの平穏無事な日々が本当は奇跡的な日々だったなんて、誰が想像出来ただろう?
――――……
大和怜が入社した翌日の朝礼からあたしの日常は変わった。
何時ものようにお局集団の陰でひっそりと朝礼の終わりを待っていると、上司の信じられない言葉が耳に飛び込んできた。
「今日から大和君の研修は大貫君にやってもらうから、通常の業務は他の皆でカバーしてください。大貫君頼んだよ?」
一斉に皆の視線があたしに集中する。
男性社員の「よりによって大貫とは可哀相に」という哀れみの眼差しと、女性社員の「なんで大貫なの!?」という嫉妬や憎しみのこもった視線。
あたしはただただ小さな体をより一層小さくすることに必死だった。
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