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俺の手が頬に触れるのと同時に
亀の瞼が落ちてその隙間から
また溢れ出すあったかい滴。
「…………う゛ー」
眉間にしわを寄せながら
次々に亀の瞳から流れ落ちる涙。
…………まえにもこんなことがあったっけ。
レッスンを終えて帰る途中
いつもより軽いリュックに違和感を感じて
シューズを忘れたことに気付いた俺。
あわてて取りに戻ったレッスン室はまだ明るくて
先生がいるんだと思ってこっそり覗いたんだ。
でも先生の姿はなくて
あるのは隅っこにうずくまる黒い塊。
『……やべーよ。こえーよ。おばけかよ。』
思わず口に出した独り言に
うずくまってたおばけが顔を上げた。
濡れたように頬に張り付いた金色の髪
汗で光る真っ白い首筋
目は泣きはらしたみたいに腫れてて…。
まぁ亀の目はもともと腫れぼったかったか(笑)
そう。
おばけじゃなくて亀だった。
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