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タクシーの窓からを流れる光の粒を目で追いかけながら
隣に座る仁のTシャツをぎゅって握った。
掴んでないと
どっかに行ってしまいそうで…
仁をそばに感じないと
信じられなくて…
伸びた髪
知らない香水
聞き慣れない低い声
いつも近くにいたのに
側には感じなかった
手を伸ばせば握ってくれる
背中に手を回せば優しく抱きしめてくれる
呼びかけたら振り向いてくれる
何も考えず
何も感じず
過ごしてきたあの頃の当たり前。
もう一度
もう一度
何度願っただろう。
涙がこぼれないように目を閉じて
眠い振りをして仁の肩に頭を預けた。
抵抗もしないで
背中に回される腕
香水のにおい
俺の涙で湿ったTシャツ
全部全部忘れたくない
この夢みたいな夜を
ずっとずっと忘れたくない
.
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