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「此処を離れましょう。」
集落の若者がそう言った。
「此処にいては“歪んだ闇”に飲み込まれて、我々も“闇”になりかねません。
此処を離れて、
新しい土地に行きましょう。」
住人たちは呆然となってその若者を見つめていた。
『何を言っているんだ?』
皆がそう思っていた。
集落の年配の者が若者に向かって言った。
「離れてすぐに“歪んだ闇”に見つかったらどうする!!結界の囲いを通り抜けれる程あいつらは強くなっている!!
我々では太刀打ち出来ない!あっという間に全滅してしまう!!」
その言葉に若者は少し戸惑ったが、長老の隣にいるアリスを見るなり、希望を込めて言い返した。
「アリスさんがいる!スペードの剣士様が!!」
アリスは胸元を押さえた。
アリスの左胸には赤のスペード模様が入っているのをつい先日、ハクが見つけたのだ。
「スペードは戦の女神の記し、物語にもそうあるじゃないか!!」
確かにあった。
戦場の女神、スペードの物語。
唯一、“歪んだ闇”を滅せられる存在が戦の女神、スペードだった。
その物語通り、私は強く勇ましかった。
今も“歪んだ闇”の名を聴くだけで体が狂いそうだ。
私はスペードの血を意志を魂を受け継いでいるのだ。選ばれた存在だ。
住人たちは若者を見、アリスを見た。
不安が吹き飛んだかのように皆の目に希望が浮かぶのが見えた。
「アリス様!!戦の女神様!!
どうか我々に救いの手を!!!」
心が高揚していく。
気持ちいい……。
アイツをたくさんたくさんたくさんたくさんコロシタイ。
「分かった。皆は私が守る。」
アリスは、狂気の笑みを浮かべていた。
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