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     正直、自分は舞台役者に向いていないと思う。  両親の離婚が決まった日、祖父に手を引かれ生まれて初めて舞台演劇と言うものと出会った。幼い和沙には話の流れなど全く解らなかった。しかし、『西園寺京也』と言う演出家を目にした途端、一気にその世界に引きずり込まれた。  絶対に、西園寺京也の舞台に出るんだと心に決めた。  それを誓った祖父は亡くなってしまったけれど、舞台役者の世界に入り込んだ和沙は、それを自分自身との約束にした。 (―――…それなのに……)  今の自分は、酷く惨めだ。  西園寺京也の息子である西園寺右京と、関係を持ってしまった。しかもこれは、世間一般で言うところの不倫にあたる。西園寺に取り入りたかった訳ではない。そんな卑怯な手口、絶対にしたくない。大切な、唯一人自分を大切にしてくれた祖父を裏切るような行為だから。  和沙にとって、右京との関係は師弟のようなものに感じた。
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