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あたりは黒に染まり、蝋に火を灯した。
火は音もなく揺れる。
「手を、握ってくれぬか」
「はぁ?」
「良いから」
少しだけ戸惑ったが、夏侯惇は手を曹操の手に重ねた。
曹操から手を握った。握ったよりも包んだに等しいその力に、夏侯惇の顔は曇った。
その手は髪の如く軽かった。曹操は笑う。
「こんな手では、もう何も掴めまい」
夏侯惇は壊れない様に、しかし強く握った。
「らしくない事を。ここまで来たのは汝の手。然りや」
「・・・然り」
「そして、これからも俺を導くのはまぎれもなくこの手ぞ。北を指すば匈を討ち、南を指すば蜀を滅さん」
夏侯惇の顔を見ていた曹操は天井へ向き直り、ふふっと笑った。
実に穏やかだ。
再び弱々しく手を握る。手が少しばかり汗ばんでいた。
「孟徳・・・?」
曹操は眠っていた。
夏侯惇は握っていた手をそっと外し、起こさない様に部屋を出た。
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