第十三話

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          睦月が……睦月が…おかしい…こんなのは初めてだ。   いつもは少なからず、瞳に確かな光を感じられた…感じられたんだ…! なのに今は欠片も感じられなかった…完全に消え失せて……       『いわゆる放置プレイって奴ですよ。神崎さんみたく僕はドMではありませんが、誰だって孤独になりたい時もあるんです』       そう言って睦月は擦れ違うようにして私の後ろへと歩いていってしまった。   無力…か…心が締め付けられるように痛いな……   私にだって我が儘を言うときはあるが、今回の睦月だけは放っておけないんだ…!きっと何かをしてしまうだろう……       私は少しして振り返ると、睦月が左手で顔を押さえて空を見上げながら歩いていた。 風に流れて聞こえてくる声……笑い声…?     私は自然と睦月の方へと駆け出していた。       「睦月…待ってくれ…!」     私は後ろから睦月の肩を掴み、振り向かせる………その刹那、私の背筋が…全てが凍り付いた。   体を貫くような冷たい瞳。 異物を見るような、自分と一線を引いた向こう側にいる感覚。 今までに見たことのない冷徹な……っ…!     『カエれ』     「い…いや…だ」   『かエれ!』     睦月は私の手を振り払い、再び歩き始める。私も再び睦月に近寄り、先程と同じように睦月の肩に手を掛け――       ドサッ……       …ることは出来なかった。 視界は青一色に染まり、背中に軽い衝撃が走った。   ……どうやら私は睦月によって砂浜へと倒されてしまったようだ。睦月があの瞳で見下ろしている……     『ククッ、キレるぞ…関わるんじゃねぇ…!』       恐怖……その二文字が頭の中を駆け巡る。口調が、記憶の失う前の「それ」よりも覇気を持ち、私は睦月の威圧感より怯んでしまう。     『次に関わるんだったら、容赦はしないからな』     そう言って睦月はどこかへ行ってしまった。私は仰向けになりながら空を見つめていたら、今更ながら涙が溢れ出してきたんだ……   ―――――― ――――― ―――― ――― ―― ―    
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