第十四話

9/10
前へ
/414ページ
次へ
        目の前で、睦月が頭を抑え苦しんでいる。 だが、俺は絶対に攻撃の手は緩めない。緩めてはならないんだ。 これは過去の睦月を取り戻すために、吹雪ちゃんの姿を…思い出させるために。     俺は未だに頭を抑える睦月の両肩を掴み、腹部に膝を突き刺す。 睦月の体はくの字に曲がり、折れ曲がって見せた背中に肘を叩き込んだ。         睦月の腹部にはまだ俺の膝があり、反対側から肘を叩き込んだために衝撃の逃げ道は無く、体内部にしっかりと行き渡っただろう。       「痛みを知れ、彼奴が受けた痛みはそんなチンケな痛みなんかしゃねぇぞ」   『…がはっ!ゲホッ…ゲホッ!』       もう、睦月に攻撃は必要無いだろう。こんな事で思い出すとは到底思えないから……ただ、俺の睦月への苛立ちが爆発したから。     睦月は口から血を流すが、フラフラと立ち上がった。   俺は睦月に手を差し伸べると、睦月は俺の手首を掴み、胸倉を掴んで背中を向けて俺に密着してくる。 そしてそのまま足を払い、俺は投げ飛ばされた。         辛うじて背中で着地したが、肺の中の酸素が一気に吐き出された。   睦月が俺の近くに立ち、冷徹な瞳で見下ろしていた。 その目は万物を凍らせるような絶対零度の瞳をしていて、雰囲気がまるで違った。   これは俺が今まで生きていて、唯一恐れを成した人物。 全てを掌握される…体を動かすことすらままならない、人間の奥底の恐怖を奮い立たせるそれ――             「ここまでやって、ようやく帰ってきたのかコラ……おせーぞ馬鹿野郎」   『ふん、何つー強引な手段を取りやがる………だが、礼を言おう』         戻ってきた…睦月が…!       「一発殴らせんか!」   『散々殴ったろうが!』       ……これだ、この雰囲気を俺は待っていたぜ……     ―――――― ――――― ―――― ――― ―― ―    
/414ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16602人が本棚に入れています
本棚に追加