第十六話

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        記憶を取り戻してからと言うものの、大変さは三倍近く増加した。   あれからマスターに謝罪しに行くと、何故か俺が記憶を取り戻したと聞きつけた街の住民が喫茶店に押し寄せていた。     勿論、そんな事を知らない俺はすぐさま住民に捕まり、もみくちゃにされたさ………あの時は本気でマスターを殴ろうかと思ったが、絶対にマスターには手を出せなかった。       理由?   それはマスターが怖いからだ。 マスターは一体何歳なのか、どこに住んでいるのか……など、様々な情報が不詳なんだよ。   唯一分かっているのは性別位だな…男だぞ?         そして、喧嘩した時の痣だらけな顔で家に帰ったら……これまた騒がしかったんよ。   記憶喪失中に起こった出来事は全て覚えていたが……神流 睦月、一生の不覚であった。   変態じゃねぇか俺……       とにかく、家に帰ったら柊が突っ込んできて、見事に鳩尾に頭が突き刺さった。 顔を真っ青にした俺はその場に崩れ落ちていった……柊恐るべし。     んで、目を覚ましたらベッドの上に寝ていて神崎が看病していてくれたって訳だ。   それが今現在の状況だな。   さぁ、本編の再開だ。         「睦月、大丈夫か…?」   『大丈夫だ、記憶も取り戻して、その時の記憶も覚えている』       俺が記憶を取り戻したからか、口調が違うからかは分からないが、神崎は相当驚いていた。   面白い、やはり神崎は弄り甲斐のある性格だな。       「そう…か……ならば、もう私は必要ない…かな?睦月は私が嫌いだし、この家に住むのも記憶喪失中の睦月の了承だし……私は家に帰るとしよう」         ………駄目だ、そんな事はさせない。神崎には居てもらわなければならない。 今の俺はもう過去には囚われないから…過去を乗り越えるから……     そう思ったら、立ち上がった神崎の腕を俺は掴んでいた。   神崎は再び驚いたような表情で俺を見る。その瞳は哀愁感が帯びていた。           『まだ…お前には居てもらう。今の俺には足りない物が多すぎるから、お前にそれを補ってもらいたい。   勘違いするな…?ただ、俺は自分が大変な思いをするからだな……』       そう伝えると、神崎は勢い良く声を上げて笑い始めた。   人が真剣な話をしているのに…何という女だまったく……    
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