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マスターの心臓に悪い発言によって鼓動が早まったが、なんとか平常心を保ちながら神崎達のテーブルに到着する。
「うん?どうしたんだ睦月?まだ私達は注文は……」
『来店初回限定の特別珈琲をどうぞ』
鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をする神崎と門宮。
柊は元々この喫茶店に来るのは初めてだから、むしろ嬉しそうに声を漏らしている。
「しっ、しかし私達は既に」
『生憎俺はまだ記憶が曖昧でねぇ……誰が来店したのか分からないさ。だからゆっくり喫茶店を楽しんでくれ』
「やったねしーちゃん!睦月が特別に珈琲を出してくれたよ☆」
素知らぬ顔をして俺は各々珈琲を置いていき、トレイを片手に再びスタッフルームへと戻っていく。
するとその時、扉が開いた音がした。どうやらあの人が来たようだ。
俺は顔を見ることもなく誰が来たか容易に想像し、紅茶とチーズケーキを用意。
いつもは日曜日に来るんだが、俺が一ヶ月も来なかったんだ……サービスをしないといけないな。
紅茶とチーズケーキの他に、珈琲とアップルパイをトレイに乗せ、スタッフルームを出る。
やはり想定通り、来店したのは毎週日曜日の開店一番に来てくれる大人の女性。
俺はすぐにあの人が座るテーブルに行き、第一に謝る。
『一ヶ月の間不在にしてすいませんでした。記憶はすでに取り戻しました……が、今回はお詫びとしていつもの紅茶とチーズケーキに加え、俺が淹れた珈琲とアップルパイをどうぞ』
「本当に良いのかしら…!?睦月君の淹れた珈琲を?」
『えぇ。もしかして要らぬお節介でしたか…?』
「と、とんでもないわ。有り難く頂戴するわ」
などと言うようなやり取りを行い、俺はその場を後にした。
やはり女性は嬉しかったのか、語尾が若干高まっていたのが聞いて分かった。
ああも好印象を受けると、俺も少々嬉しいさ。
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