第十六話

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        若干イライラとした俺は歩行速度を上げ、早足で八百屋へと向かった。 途中通った店々では、多くの人から声を掛けられた。     記憶が戻って良かった。 記憶が戻ってからは笑顔は無いのか? やはりクールな睦月が良い。 隣にいる神崎は彼女なのか?       など、特に最後の方はスルーしてもらいたい発言ばかりであった。 一つ一つ対応していたから、八百屋に着くまでに多少時間が掛かったさ。   最後の発言を聞いた神崎は顔が真っ赤になりながら俯いていて、更にイライラを増した俺だった。     自分で変態発言しておきながら、他人に突っ込まれたらそれなのか?       とにかく、俺と神崎は八百屋に着いたのだけ報告しておこう。         「林檎二つに蜜柑一袋と蜂蜜一瓶……で合っているのか?」   『あぁ、確かにそう書かれている』       俺は手早くそれ等を手に取り、八百屋の店長に話し掛けた。 ここの店長は気さくな性格をしていて、尚且つ豪快な……言ったら悪いかもしれないが、暑苦しい。       「おっ、久しぶりだな睦月!今日も買い出しとは精が出るな。 それに記憶が戻ったんだってな? よし、久しぶりに会って記憶も戻った記念におまけしようじゃないか。 各々一個ずつ持って行けい!」     『そんなの悪いですよ。 俺はこうやって親父っさんを始め、みんなから挨拶や笑顔を貰ってますから、それだけで十分過ぎます。 それに、おまけなんかしたら奥様に怒られますよ?』         親父っさんはがははは、と口を開けて笑い声を上げる。 まったく…親父っさんは人が良いよ……暖かいなぁ。       「えぇい!しのごの言わずに持って行けい!」       袋に林檎三つと蜜柑二袋に蜂蜜二瓶を突っ込み、親父っさんは俺に渡してきた。 あらかじめおまけされた物以外の金は渡していて、無理矢理押し付けられた。     俺は礼を言い、今も歯を見せて笑っていた親父っさんと別れた。   今度喫茶店に親父っさんが来たらうんとサービスしてあげよう。      
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