第十六話

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        「あら、久しぶりですね睦月君。お姉さん睦月君を最近見なかったからショックだったのですよ…?」     一言で言えば、『大和撫子』が似合うような和の雰囲気をメラメラと醸し出す店長。   と、言うより、実際に和の女性なだけにこの話し方なんだが……今日はいつもと明らかに違った。 いつもは服装まで和に染まった着物なのだが、今日だけは違う。         『お久しぶりです。今日は着物じゃないんですね……着物以外を着ているのは初めて見ましたよ』   「そうなんですよ。私だって女の子なんですから、たまには良いかなぁ…って……あはは…やっぱり似合わないですよね?」       誰が似合わないと言いましたかな?まだ似合わないの似の字すら言ってないですが?   俺は店長の手を取り、目線をこちらに向けさせた。       『たまには人間、休憩も必要ですよ?だから、したい事をしても誰も無理強いはしません。 店長は美人なんですから、もっと自信を持って下さい。 ミス大和撫子…ですよ?』     「あらあら、まさか睦月君に口説かれているのですか…? 睦月君は優しいですね……でも、駄目です、駄目なのです。 睦月君のお隣には彼女さんが居るのに、他の女性にそんなに優しくするのは駄目なのです」     『……そんなの関係ありません。俺は言いたい事を言っただけです。 それに、隣にいるのはクラスメイトであって彼女ではありません。 ところで、葡萄酒一リットルありますか?マスターの遣いで購入しに来たんです』           俺が言うと、店長はポンッと手を合わせてから葡萄酒を取りに行った。 隣の神崎を覗いてみると、案の定顔を赤くして俺の服の後ろ裾を小さく掴んでいた。   ………苛める良いネタが出来たものだ。      
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