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数分すると、若干頬を赤く染めた店長が一リットル分の葡萄酒を持ってきた。
………飲んだな…?
「むひゅききゅん、ぶどーひゅれすよー」
『またこの人は…自分の店の商品を飲んだら駄目ですってば。
あなたは酒に弱いんですから、一杯飲んだだけで泥酔しているじゃないですか』
そう、ここの店長は酒屋なのに酒に滅法弱い。
だからコップ一杯飲んだだけで呂律が回らない位簡単に酔っぱらってしまう。
更には酒癖が悪く、果てしなく妖艶な性格になるからタチが悪い。
神崎に葡萄酒を渡して、急いで酒屋から追い出し商店街を少し廻っているよう伝えると、入り口に鍵を掛けて店長に向き合った。
『……瑞希さん、またですか…!?』
「そうれす、そうらんれす」
瑞希さんとは、店長の名前。
俺が毎回瑞希さんの店に来る度に、瑞希さんは酒を飲む。
唯一飲まなかったのは、初めて出会った時位だな。
瑞希さんは俺の顔横ギリギリに拳を放ってきた。
ニコニコとした表情からは見て取れない、重い威力を誇る拳。
……そう、瑞希さんは酒乱だ。
「えへへぇ…ぱーんち!」
『っぐは…!』
辛うじて放たれた拳を握って止めたが、バチィッ!と言う音が響いて激痛が迸る。
俺は瑞希に真正面から抱き付き、両手を両手で掴んで動きを封じ込めた。
瑞希さんには悪いが、こうでもしないと止まらないからだ。
「やん…むひゅききゅんはえっちれす…!そくばくぷれー……嫌じゃないれす」
『目を覚ませ!』
右手で瑞希さんの両手を掴み、頭上に上げると俺は、隙だらけになった脇腹に左手を添えて指を動かし始める。
ただの擽りだが、瑞希さんにとっては最も効果的な攻撃方法だから仕方がない。
しかし……その代わりに妙に色っぽいから困る。
「…んんっ…ふ……ぁぁっ…!むひゅききゅんはえっちれす…えっちれす…!!」
『瑞希さんが酒を飲まなきゃこんな事しませんってば!』
正直、参った。
酸欠になった瑞希さんが軽く痙攣して、カウンターの椅子に座っているんだから……このまま放置していきたいが、後々大変な事になってしまうからそうは行かない。
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