第十六話

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        しばしの幸せを感じながら、私達は喫茶店に到着してしまった。 もう少しこうしていたかったが…タイムリミットらしい。   私達は喫茶店の中に入った。         「お帰りなさい睦月君、仕入れありがとうございます。 それと……ご苦労様」   『たまたま通りかかっただけなので……少々私情は挟んでいますがね』     「へぇ、睦月君がそれ程の感情を表すなんてね。吹っ切れましたか?」         よく分からない会話を睦月とマスターはしていて、睦月は最後の言葉の後『どうだかな』と呟いて私から荷物を取り、スタッフルームに行ってしまった。     私は雅と飛鳥が座っている席へ向かうと、雅がそれを阻止して私と二人きりになれる位皆から距離を取ってきた。         「しーちゃん、睦月君が大好き?」   「いっ、いきなり何を!?」     「睦月君と居るときのしーちゃん…凄く女の子の顔をしていたからね☆言っておくけど、恐らく飛鳥ちゃんも睦月君の事好きだよ? 二人が買い出しに行っている時、少し話したんだけど……飛鳥ちゃんはどうやら睦月君にベタ惚れらしい。 口調も若干違うし、時折睦月君を追う目がしーちゃんと同じ目をしてるの」           突如言われたその台詞。   薄々感づいていた……いや、飛鳥の睦月への対応などで気がついていた。 ただ、私がそれを否定していたのかもしれない。     睦月と飛鳥が交際関係に発展する事を、同じ人に恋心を持つことを。         「ふふ、ならば恋敵として向かい合わなければな。私も睦月が好きだから…だから向かい合う」     『よくそんな恥ずかしい宣言が出来るものだな。俺にはとても真似できない』   「「ふわぁぁぁ!?」」           おっ、驚いた…そして聞かれた…!睦月に全部……聞かれてしまった。   睦月は呆れたように溜息を吐いて、私達を飛鳥が座るテーブルへと座らされた。 そして二、三回咳払いすると、僅かに目線を外してこう言ってきた。       『あー…上から目線になっちまうが…俺を惚れさせてみろ。 俺の心の中には一人の故人がいる。そいつを忘れさせるくらい惚れさせてみろ』         ……ふふ…ふふふ…睦月は本当に面白い。まさかそのような宣言をされるとは、睦月も人のことが言えないじゃないか…?    
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