第十六話

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      まさかそんな事を言われるとは思ってもいなかった。 てっきり呆れられたのかと……それよりも、心に一人の故人が…だと?     『全て話そう。 俺が笑顔を忘れた理由。 俺が皆から一線引く理由。 俺が愛情までも薄れた理由を』                                             長き時間を掛けて睦月は徒然と昔話を私達に話してくれた。   その内容は決して軽くはなく、とても…とても重い話。     幼少からの友人、並びにようやく結ばれた恋心……それが同日に全て失われたその喪失感。       駄目だ、私がその立場であれば精神が狂ってしまうだろう。 睦月が笑顔になれなくなった理由も、分かった気がする。 今ではこうやって何事も無かったようにしているが、内心では永遠とその幼なじみが存在している………             睦月から話を聞き終えた瞬間、私達三人からは涙が流れていた。   飛鳥は目を何度も擦って涙を拭い、雅は嗚咽を漏らしながら顔全体を手で隠している。     私もまともに睦月の顔が見えず、飛鳥と同じように何度も目を擦っている。 何度も何度も拭っても、涙は止めどなく溢れてきた。         『まるで太陽だった。 笑顔が、行動が、存在が……とても暖かかった。 だから、その感情を忘れさせるくらい、俺を惚れさせてみろ。 ……以上が全てだ』     「さて睦月君、今日はもう上がって下さい。そして、彼女達を送って行きなさい」         未だに涙を流れていた私達は、私服に着替えた睦月にそれぞれハンカチを渡され、そして喫茶店を出された。   多少涙は止まったが、誰も何も言葉を発することが出来なかった……     ――――――― ―――――― ――――― ―――― ――― ―― ―    
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