第十八話

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          十分、二十分か…時間が分からないが、恐らく経過しただろう。 静寂が訪れていたこの部屋で、変化が起きた。   音を立てて扉が開き、門宮が獣をも圧倒するだろう顔をして俺の所に来たからだ。       「睦月君、しーちゃん泣かせたね?」   『さぁ…?そんな人は俺の記憶に無いな』       ガッ、と門宮に胸倉を掴まれ、額と額がぶつかり合う。 痛みは感じたが、それ以前に門宮への感情の方が強かった。     何故、門宮は俺が神崎を泣かせたと決め付けた?俺が最後に見た神崎は泣いてはいない。   確かに神崎を拒絶したが、その後に何かあって神崎が涙を流したのかもしれないじゃないか。   なのに門宮は俺が神崎を泣かせたと決め付ける。 ………こいつもか、こいつもやはり………           『そう思うなら、そう思えばいい。だが、俺には門宮も神崎と同じなんだと言うことが黙認できた。 何とでも言えば良い。 俺は自分自身が大嫌いで、殺したいくらいだ。門宮、俺が憎いか?妬ましいか? ……ほら、今の俺は 神 崎 の せ い で 逃げも出来ない状態なんだから、煮るなり焼くなり好きにしろよ』     「っ…!睦月君には幻滅――」   『幻滅?したのはこっちだ。前も神崎は私利私欲のために嘘を付き、俺は神崎に幻滅した。 今回は、例え冗談とは言え無抵抗な人間を拘束、及びに軟禁……明らかに冗談の域を越えていないのか? 門宮には今の俺のこの状態が見えていないのか?見ていながら、俺が怒っているとは思わないのか? お前も、同類か、俺を敵対視するか』       「っ……もう良い!」   『逃げる。それもまた選択肢だが、俺は門宮の色がもう分からない。 白と黒、顔が埋め尽くされている。お前達に色が戻ることは無いだろう』               その時、再びこの部屋の扉が音を立てて開かれた。   門宮に近寄る一つの影。そして響き渡る肌が弾かれた音。 門宮はその場にへたり込んだ為、新たにやって来た者の正体が露わになった。                                       「…むつきを…むつきを壊さないで…!みぃなんか大嫌い…!」       影の主は柊だった。 柊が門宮の頬を叩き、涙を流しながら訴えるように叫ぶ。   門宮は叩かれた頬を抑え、歯を食いしばりながら脱兎の如く部屋を出て行った。      
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