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未だに距離を取る柊に、独り言を言うように祐介は呟き始めた。
「昔々、ある所に二人の男の子と女の子がいました」
「………?」
突如として語りかけてきた祐介に疑問を抱き、柊は首を傾げるが、祐介は言葉を紡ぐのを止めようとはしなかった。
むしろ、懐かしむように、哀しむようにしてそれを口に出していた。
「男の子は女の子が好きでした。また、女の子も男の子が好きでした。
二人は小さな時からずっと一緒で、これからも永遠と一緒だと思っていました……そう、思 っ て い ま し た 。
運命とは残酷、神とは非情であり…男の子は女の子と永遠に離れ離れになってしまいました。
…男の子は会いに行こうと努力しても、忘れようと努力しても、どんなに嫌な事が自らの身に降りかかっても……決して女の子に会えず、忘れられず、記憶の九割が女の子で埋め尽くされていました」
そこで祐介は一息入れ、柊は瞳に涙を溜めて祐介の話を聞き入っていた。
「…だから、男の子は変わってしまいました。
女の子と一緒にいた時には自然に溢れた笑顔も、愛情も全て封印して、人と接するのに壁を張りました。
万物を拒絶し、己の殻に閉じこもり、離れ離れになってしまった女の子の事ばかり考えていました。
……ある日、男の子は己の殻をとある二人に粉々に打ち砕かれてしまいました。
その二人は男の子に何度拒絶されてもめげることはなく、たとえ涙を流しても男の子に接していきました」
祐介は喫茶店の入り口を見る。その行為には何の意味があったのか……分からない。
「その男の子は最終的に、二人の女の子を受け入れました。
ですが、男の子は今まで人との関わりを持とうとはしていなかったので、どうしても二人の女の子には素直にはなれません。
だから、いつも男の子は悲しませてしまい、後悔をしてしまいます……その辛さは身を引き裂かれるよりも痛く、地獄に落とされるよりも酷く………何度自殺しようと考えたか…」
「…自殺…!?」
「このお話に続きはありません……未だに、今この場所で男の子は止まっているから……おしまい」
長い長い昔話が終わり、祐介はツゥ…と一筋の涙を流した。
自らの話に感動したとかではなく、ただ反射的に涙が流れ出ていたのだ。
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