第十九話

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        俺は、このような事も何となく予想が出来ていたために、そこまで驚きは無かった。   門宮の怒りも当然だろう。 九割方俺の悪い所なんだから…       「さいってー…!」   『そんな物、どこの誰よりも俺が一番良く分かっている。 ……被害者面をして、自分の過去を消してもらうために他人を利用する………これが最低と言われずにいる方がどうかしている』     「もう一発、殴らせろ…歯、食いしばっとけ…!」           頬に再び響く鈍い衝撃と鈍痛。 バランスを崩し、危うく転倒しそうになったが踏みとどまる。   門宮は殴ったポーズだったが、その後俺の胸倉に掴み掛かってきた。       『殴りたければ殴れば良い。再び記憶喪失にさせたいなら、させれば良い。憎いか?殺したいか?恨みを持つか? 俺は逃げはしない。全て甘んじてそれを受けようじゃないか』   「なら、しーちゃんに謝って!」     『それは出来ない…いや、不可能だ。何故なら神崎は既に俺をどうするのかが決まっているからだ。 マスターがありとあらゆる情報網と人材を駆使してでも神崎を喫茶店に無理矢理到達するように仕向けたらしい。 そこには神崎以外に、柊、祐介、門宮、そして俺が集まって全てを決める』         そこで、何も変化無しだったら俺は喫茶店はおろか、この街から出て行く。       「……分かった、喫茶店に行ってるよ」       門宮は一目散に喫茶店の方角へと走り去っていった。 俺は門宮の背を見送った後、溜め息を一つ吐き出して後ろを振り返った。   後ろの電柱沿いにある塀の上に目線を上げて声をかける。         『居るのは分かっている。桐生 姫菜…出てこい』       塀の上から地に降りてきたのは、未だに教師服を着ていた桐生 姫菜。 門宮の側近故に、ほとんどの時間は門宮を見守っているのだろう。    
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