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「やめときな」
突然現れた彼女は、僕の手を止めた。あまりにも呼吸の整った僕の手を。
「貸して」
名も知らぬ彼女は、僕からナイフを取り上げた。さっきまで僕の動脈を狙っていた冷たいナイフを。
「悲しむ人がいるんじゃないの?」
いるかもしれない。でもそんなこと、今となってはどうでもよかった。
「一時の気の迷いですべてを無駄にするなんて、バカみたいだよ」
一時の気の迷い・・・か。そうかもしれないけれど、でも・・・
「生きな。捨てられる物がある内は、まだ掴めるものもある」
彼女は僕に優しいキスをくれた。氷のように静かだった手が、微かに震えた。
「ね・・・」
暖かく柔らかい腕と、綺麗な髪の甘い匂いが僕を包んだ。なんだか、もうちょっとだけ生きたくなった。
「あたしには本当に何にも無いけどね」
彼女の首から真っ赤な血が噴き出した。
震えが止まらなくなった。
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