feel

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歩きながら辺りを見回す。 彼女が言う『レストラン』とやらは、見つからない。 『コンビニ』というものや、『ファーストフード店』というものはあるが 『レストラン』らしき店は、どこにも無かった。 あの女が嘘をついたのだろうか? 否。あの人に、そんな勇気があるとは思えない。 彼女のことが気に入ったのだろうか…。 それも無いに等しい。 僕が人間に興味を持つことは、無い。 そういえば、朝ご飯食べてないや。 でも、そんなに気にしない。 おなかが空く時は、至って食事にありついている。 今はただ、彼女が指示したから向かってるだけ。 本当は本でも読みたいところだけど あいにく、本は持ち歩いてはいないから。 砂利道がコンクリートに変わって半時。 裏道にひっそり 以前は純白だったであろう黄ばんだ建物が、行く手を阻んだ。 一階は空き家になっている。 その上。 何やら独特の雰囲気を放つ扉があった。 恐らく、この建物の中だ。 なぜ、こんなところに招いたのかは不思議だが、入ってみなければ何も言えない。 無関心なほどの好奇心が、僕の足を動かす。 階段は錆びた鉄で出来ていた。 僕の肝は、そんなことじゃ動じることもなく 悲鳴をあげる階段を難無く登っていく。 磨りガラスから見る室内に、人影はない。 温かそうなイメージ。 そう、ただの想像。 僕はゆっくり、軋む扉を押し開けた。 「……」 僕の予想通り人気はなく ただ温かな空気が僕の四肢を掴んでいた。 珈琲の香が立ち込めて、鼻をくすぶる。 しつこいのはあまり好きじゃない。 どこかアンティークが漂うこの空間は どちらかといえば好きな方で 息苦しくはなかった。 カウンターらしきものに近寄る。 木製で出来たテーブルに手を触れた。 舌のようなざらざら感を僕に返してくる。 長い間使われていたのであろう、シミが目立つ。 その肢体を撫で、ため息をついた。 「いらっしゃい」 頭の上から声がした。
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