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来た道を戻り、彼女のいる家へと戻った。
本当は、戻らないつもりだったけど、彼女にお礼を言いたい気分だったから…。
結局沙夜の仕組んだ通り、僕は帰って来てしまった。
勘が鋭いのだろうか。
引き戸を開け、中に入る。
「………」
本当なら
『ただいま』
とか
『誰かいる?』
とか何とか言った方がいいのかもしれないけど、今の僕にはそのどちらも似合わなかった。
家にあがり、広い屋敷内で彼女を探す。
ふすまを開けたり、のろしをくぐって台所を覗いたり
鬼ごっこをしてる気分で、僕は彼女を探す。
無論、子供たちのようには、はしゃいだりはしないが。家内を半分程捜しおえたところで、不意に思った。
こんな広い屋敷で住んでいるのは、彼女だけなのか、
って。
もしかしたら仕事に出かけているだけかもしれないけど
そんなに人が住んでる気配が無いこの家で、他の誰かが住んでいる気がしないからかもしれない。
「……」
足が床に圧を加えて、みしみしとなるだけで、あとは何も聞こえない。
出かけたのかと、屋敷の奥まで進んだところで
ようやく彼女の姿を見つけた。
話しかけようと口が開く。
だが、喉まできていた『声』が一気に押し戻された。
障子の際に腰掛け、物羨ましそうな
それでいてどこか寂しそうな目で、外を見ていた。
掌にはかんざしのようなものが強く握られていて、膝の上におかれている。
光りを反射し、僕の目に映るそれは、特別なものに見えた。
襖に手を置き、その光景を眺めてた僕の足元に何かが擦りつく感覚がして、身の毛がよだった。
不意に足がぐらついて、奇声をあげてしまう。
「っ…わ!」
踏みそうになった、そいつの尻尾を避けたせいかバランスがとれなくなって、後ろに倒れるしかなかった。
<<バーン>>
綺麗に倒れた。
全身が畳に叩きつけられる。
痛い。
『そいつ』は驚いて逃げ去った。
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