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寒い。
僕の口からでた息が白い。
寒気がするほどの空気が僕を包んでいた。
手を合わせ吐いた息の熱で手を温める。
無意識に身体が小刻みに震えた。
この町は冬なのだろうか。
古い町並みを通り過ぎ、近代の町に出る。
夜は夜で何らかの楽しみがあるはず。
なのに、朝よりも人影は無い。
あちらの町と共通しているのは、静かだというところだな。
明かりのついているお店はなく、ただ茫然と一人、路地を歩く。
手がかじかんで痛い。
足の感覚もなくなってきた。
建物に入らなければ凍え死んでしまう。
「………」
辺りを見回したが、それといって入れそうな建物はない。
厳重すぎる。
足の痛みが舞い戻ってきた。
いつまでこの現状に耐えられるだろうか。
「……はぁー…」
両手の間に出来たすき間に息を吹き込む。
歩くのを止めて、街灯の下に座りこんだ。
顔を腕の中に埋める。
無音なのは恐くない。
一人は好きだから。
辺りをもう一度見回してみたが、相変わらず静寂を保ったまま。
人が現れる気配すらない。
何時か分からない。
どこまで来たのかも分からない。
来た道も覚えていない。
視界がぼやけてきた。
「―――。」
誰かが僕に話しかけている。
死神?
なんて空想が僕の脳裏を過ぎる。
「……」
目を精一杯開けたつもり。
でも、その人のかすんだ姿しかわからない。
どんな顔かも。
「―――」
話すならもっと大きい声で話してよ。
全然聞こえない。
体が浮く感じがした。
僕はまだ空を飛べていたような気がした。
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