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顔を前に戻し、首の懲りをほぐす。
「ここは、どこですか?」
彼女の質問に質問で答えた。
要するに彼女の問いが、愚問だということ。
びくついたのか、返答が遅かった。
外にいる鳥の方が、早かったような気がする。
「…私の家です。昨日、雨の中、家の前に倒れていたものですから…」
倒れていた
とは、どういうことだ。
倒れていたのなら、救急車を呼べばいいだろう。
…まさか、この女、余程の無能なのだろうか?
「放っておけばよかったんじゃない?そうすれば、今みたいに手間がかからないのに…」
頭の包帯を解く腕を見つめ、彼女に反発した。
何も言わず、傷口に触れられたことに、腹が立ったせいかもしれない。
無関心な態度で、彼女を見据える。
また、さっきみたいにおびえるのだろうか…。
否。逃げるかもしれない。
だが、どちらも当て嵌まらなかった。
彼女は処置をする手を休めず、僕に応えた。
「そういうわけにもいきませんよ。私、そこまで優しさがないわけじゃないですから」
世間では、それをお人よしというのだ。
薄情者とは、こいつのことを、いうのだな。
と、頭の中で、御託を並べた。
どれも口には出さなかったが、それは僕なりの『優しさ』だ。
多分、誰もわかッてくれないだろう。
昔から、そうだった。
「君、名前は?」
彼女の腕をよけ、顔を見て言った。
これくらいはしなければと、体が動いたからだ。
「そういうのは、自分が名乗ってから、聞くものですよ」
彼女は僕と目を合わせず、呟いた。
妥当な意見だ。
だが、怪我人の僕に、気を利かせるという行為が、多少間違っているような気がするのだが…。
「…柚(ゆう)だ。ゆずって書く。君は?」
あえて下の名前を出した。
上の名など、ただのお飾りにすぎない。
彼女はようやく僕を見た。
僕の目の錯覚か、微笑んで見える。
幾分、年上のようだが…
24といったところか。
「沙夜(さや)。さんずいの少ないに夜よ」
沙夜…か。
確かに、そんなかんじがする。
感じ的に、僕と似たような人だ。
これは、推測だが、少なからず彼女が僕を受け入れた時点で、他の人とは違う。
そんな気がした。
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