放浪

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   目元が腫れぼったい。  足が痛い。  眩暈がしてきた。  不調ならいくらでもあったが、良いことは何一つなかった。  歩けば、焼けるような足の痛み。  時間が経てば喉は渇き、何をしていても眩暈がしてくる。  とんでもない苦痛。  それが常に俺にまとわりつき、まともな思考をさせてくれない。  他にも苦痛はある。  歩けば胸が揺れ、先端がこすれて痛い。  背が縮んでしまったのか、服がだぶだぶとして足に絡みつき歩くことも辛い。  腰まである髪がまとわりついてきて気持ち悪い。  女になってから初めての経験はどれも不愉快なものばかりで、気持ちを酷く億劫にさせた。  どこを歩いているんだろう?  ぼやける視界の中で見つけるのはたくさんの人と、たくさんの建物。  微かに見覚えのある八百屋の文字が見え、ここが近所の商店街なのだと分かった。  何で歩いてるんだろう?  歩くから足が痛いのに、でも足は動いた。  何で泣いてるんだろう?  泣くから腫れぼったくなるのに、でも涙は溢れた。  パジャマで裸足の、泣きながら歩く女。  傍から見たらさぞかし怪しいだろう。  家出か何かと思われているかもしれない。  どれだけ嘆こうとも全ては去る。  何かに急かされるように人は流れ、俺の前から消えていく。  俺はもう俺ではない。  悲観するべきことさえ、誰一人信じてはくれない。  何のために生きてきたのか。  どうして生まれてきたのか。  ――生きているのか。  痛みは感覚を麻痺させ、麻痺した感覚は痛みさえも麻痺させる。  全てはっきりとしない、全て曖昧な世界で、ただ俺は歩く。  どこに行く?  目的はなんだ?  何をしたいんだ?  とりとめのない疑問のみが反芻し、狂わせる。  今ではもう、何を大事にしていたのかさえ分からない。  分かったとしても、それはもう掴めない。  思い出したくない。  
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