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ピアスの男はため息混じりにそう言うと、後ろの男を二人ほど連れてどこかへと行ってしまった。
残ったのは一人……
いや、後ろにまだ一人いた。
「安田さん、高橋さんたち行っちゃいましたよ?」
「いいんだよ、あいつにャあ女の見る目がねェ。あとでたっぷり自慢して悔しがらせてやる」
けけけ。
そんな気持ちの悪い笑みを浮かべると、安田と呼ばれたプリンの男は再び視線を俺に向けた。
右目だけが大きく見開いた目が、俺を刺す。
「つうわけだ。お前暇だろ? 付き合えよ」
半ば強引だった。
俺の腕を無理に引っ掴むとそのまま起こし、立たせた。
足の痛みのせいでふらつくが、それは男が俺の肩を支えて倒れずに済んだ。
俺の肩を抱くのとは逆の手で、男は俺の顎を持ち上げた。
「お? もしかして男にでも振られて傷心か? 目ェ死んでんぞ?」
どうやらこの男にはそう見えたらしい。
後ろでもう一人の男が「そうかもっすね」と言っている辺り、本当にそう見えるのだろう。
俺自身でさえ生気がないことは分かる。
「俺的には公園で、ッつうのもなかなか乙だと思うんだが、そこんとこどうよ?」
「いいっすねぇ。でも、今の時間はまずくないっすか? まだ真昼間っすよ?」
「そうなんだよなァ。それがちとまずい。この女に叫ばれでもしたら大変……つうか叫びそうにないな、こりャ」
けけけ。
こいつはそう笑うのが癖なのだろうか。
さもおかしそうに俺を見て笑う。
にかっと開いた口から覗いた並びの悪い歯が、酷く気持ち悪かった。
「でも叫ばれなくっても、誰かに見られたらその時点でお終いっすよ? 最近物騒だとかどうだとかで警察がよく巡回するらしいっすし」
「んだよ、せっかく乗り気だったのによォ。いいや、とりあえずホテル突っ込むから金はお前が頼むわ」
「ええ! そんな、酷いっすよ! 安田さんの方が金持ってるじゃないっすか!」
そんな男の声が後ろで聞こえたが、既に俺はこの安田という男に腕を引っ張られ歩かされていた。
俺よりも長いコンパスで歩く安田はどんどん先に行き、俺はつんのめるようにして追うしかなかった。
がっちり掴まれた腕からは、逃げられそうになかった。
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