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どうして、女になってる?
鏡の中の女――少女と目が合った。
余程驚いているのだろう。
瞳からは感じられるはずの生気が全くなく、しきりに喉を触っている。
酷く惨めに見えた。
とても信じられる光景ではない。
朝起きたら女になっていた。
男としてあるべきはずのものが全てなく、代わりにあるのは女のものだけ。
俺が成ってしまった女に俺という面影は全くなく、女としての印象のみが脳裏に焼き付けられる。
(何故?)
分からない。
これが本当に起きていることなのかさえも判断しきれないほど、頭がおかしくなりそうだった。
右手を動かせば、鏡の中では対となる女の腕が動く。
自身の腕の方を見れば、その細身の体には合わぬほど大きなパジャマを着ており、ぶかぶかと持て余していた。
動くのは俺の腕で、でもそれは女の腕。
(俺は女になった?)
ああ、そうだ。
分かる。
現状を見れば分かる。
(何故なった?)
分からない。
だから混乱している。
次第にぼやけ始める視界の、その鏡の中。
奥から――後ろから一人の男が姿を現した。
その男が言葉を発する。
「だ、誰……?」
振り返ると頭一つ分高く、その位置に、俺の兄貴の顔があった。
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