第一章 復興の音色

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「陛下はまだおやすみでございますが、急務でしたらもう一度お声を…。」 「あ、いや、いいんだ香來。ありがとう。」 片手を上げて香來をいさめる兼訟。 「おそらく陛下も、眠っていらっしゃった方が幸いだろうからね。」 苦笑を浮かべる兼訟の様子に、香來は大体を察して顔をしかめた。 「まったく…葵瞻(キゼン)殿は何をしているんでしょうか。」 「いや、葵瞻一人のせいではないさ。彼だけにどうにかできるような子じゃないからね。」 ため息混じりの香來に兼訟が優しく言葉をかける。 「まぁそんなわけで、今日は朝からそんな状態なんだ。陛下はまだお目覚めにならない方がいいだろう。」 「御意にございます。」 知れば飛び起きてくださるかもしれませんが、陛下の心臓が止まってしまいますね、と香來は苦笑した。 「もう城の者はほとんどがこの事態を知っているし、葵瞻はじめ護衛も皆出た。あの子のことだからいつものところだろうし、心配しなくていいと思うよ。」 それじゃあ香來、また、と手を振って兼訟は去っていく。 香來はその後ろ姿にもう一度深く礼をする。 皇帝付きとはいえどたかが従女一人。 参謀の地位がそれよりどのくらい高いかと問われれば、本当はこうして会話をすることさえ恐れ多いものなのだ。 そんな香來にさえ、心配するなと気を遣ってくれる自国の参謀を、香來は誇らしく思った。 あの親しみやすさ、柔らかさと、そして巧みで計算された話術が、内乱時のこの国を他国から守ったのだと改めて思う。 参謀・兼訟の言葉の上手さには、皇帝・瞭明さえ舌を巻くのだと密かに噂されるほどなのだ。
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