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「ありがとうございました。」
お礼を言って手を振れば、いいえ、と柔らかい笑顔が返ってくる。
ふわりと纏う布を翻すと、林麗は小走りに門の方へと下って行く。
城から門は一本道。
一番広い通りを長いこと下って行けば門だ。
門というのは当然、この城下町の出口であり、この卿国の国境でもある。
輸出入はこの大門から出入りし、人もまた、きちんとした審査を通ればここから出入りすることができる。
「李嬰っ!」
長い道は徐々に下りになっており、当初小走りだった林麗の足は、大門に着くころには完全に走っていた。
目的の人が見えると、林麗は声をかけて大きく手を振った。
「宰相様!?よっと!」
走り込んで来た林麗を受け止める女性。
彼女が李嬰。
歳は四十代というところだろうか。
暖かくて時に厳しい、本当に母のような人だ。
「李嬰おはよう!思わず走っちゃった。」
少し息をきらせながら、林麗はまったく悪びれる様子なく笑った。
「あぁ驚いた…急いで来るもんだから。その様子だと何かあったわけじゃないんですね?」
うん、と林麗は大きく頷いた。
「今日は陛下が目覚める前に来ちゃおうと思っただけ。」
思わず苦笑するのは李嬰の方。
「宰相様…また護衛の皆さんは撒いて抜け出したんですか?」
「朝抜けるのは初めてだから、みんな油断してた。」
どう返事を返せばいいものやらわからないな、と李嬰は思った。
こうしてちょくちょく宰相自ら街の様子を見に来てくれることは民としてはありがたいことではあるが、この人に何かあったら、と思うとやはりこの一人歩きに賛成はできなかった。
林麗は李嬰からしてみたらまだまだ娘っ子ではあるが、彼女はこの卿国の宰相なのだから。
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