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それから国営の大市場の様子を見て回った。
大市場の役人からも話を聞く。
もちろん彼らは王宮から派遣された役人であり、林麗は自分がここに来たことは秘密だと念を押しておいた。
城から抜け出すのは毎度のことなのでほとんど意味もないと皆わかっているのだが。
それが済むと市へ。
そのころになれば、城下はすっかりと賑わいを見せていた。
「朝の買い物が始まる時間ですよ。」
人の多さに目を見張る林麗に、李嬰は笑って説明する。
「今日はいい方です。休日ともなれば、道は人でいっぱいになりますからね。」
活気があっていいことですよ、と李嬰は満足気に笑う。
「あ!宰相様じゃないですか。」
人並みの中市を歩くと声がかかった。
「これ、持っていってくださいよ!今朝とれた紅茶の葉です!!」
「わぁ、綺麗な色。」
ポンと手に乗せられた包みの中には、細かく刻まれた淡い黄色の葉。
「茉莉花茶ですよ。“開闢の王”と、ぜひどうぞ。」
「いいんですか!?ありがとう。」
そう林麗が言い終わるか終わらないかという時。
「宰相様、こっちもぜひ!」
「うちにもよってくださいな。」
あちこちから声がかかってきた。
困り顔をしながらも嬉しそうな林麗の姿に苦笑する李嬰。
彼女の視界の端に、走り寄ってくる男が映った。
「あらあら、宰相様。残念ですけどお迎えが参りましたよ。」
茶化すようにそう言った李嬰の言葉に、ビクリと林麗の肩が揺れる。
李嬰の言葉の意味を瞬時に理解したのだろう。
それとほとんど同時に、市に大声が響き渡る。
「宰相様っ!!!」
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