105人が本棚に入れています
本棚に追加
がっちりと、葵瞻はこれでもかという力で林麗の腕を掴む。
「王宮へ戻りますよ宰相様!皇帝陛下がご起床になっていたらどうするのですか!」
そのまま、ほとんど引きずるように歩き始める。
「ちょ…ちょっと葵瞻!?待って、痛い。自分で歩けるから!」
「なりません!貴女には油断も隙もありはしないんですから!!」
さすがに葵瞻。
林麗の性格は充分に把握しているらしい。
なんとか城下の大通りを抜けて人気のない道に入ると、葵瞻は乱暴に手を離した。
「まったくお前は…自分の立場を自覚してくれっ!宰相に何かあれば、国が傾く!」
周囲の目がなくなれば、いつもの口調に戻る葵瞻。
二人きりの時の会話は常にこんな感じだ。
重臣とその護衛にしてはずいぶんと打ち解けた話し方だが、何を隠そう葵瞻は瞭明の無二の親友なのだ。
二人きりになれば、皇帝といえども瞭明に対してでもこの口調を使う。
「…ごめんなさい。」
ギロリと葵瞻に睨まれ、放された手を擦りながら林麗はうつ向いた。
「…心配をかけたくないから、瞭明が寝ている時間に抜け出したのか?」
まだ怒りを含んでいる声に、林麗はただ小さく頷いた。
「あのなぁ…心配かけたくないなら、俺を連れて行けばいいだろ!?大体、お前と俺は常に行動を共にするって義務だろ!わかってるのか?」
「…わかってる。ごめんなさい。」
本日もう何度目かの謝罪。
「お前の謝罪はいつだって口ばっかりだ。もう二十一だろ?いい加減わきまえろ!」
「…はい。」
消えてしまいそうな林麗の返事に、葵瞻ははぁ、と大きくため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!