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「……帰るぞ。」
今度はどこかを引っ張るわけでも掴むわけでもなく、くるりと体を城へと向けると、葵瞻はスタスタと歩きだす。
「葵瞻っ!」
こうすれば、林麗がついてくるのだということを葵瞻は知っている。
「葵瞻…怒ってる?」
たとえその場だけであろうとも反省の色も見せてくれるのだ。
無理矢理引っ張って行くよりもずいぶん効果がある。
「怒っては、いない。」
「嘘…。だって…。」
「お前が遊び半分な気持ちで城下に下りているんじゃないことはわかっている。」
宰相としての任の一貫として、林麗は街を視察しているのだ。
その上で毎度問題を解決して帰ってくるのだから、一概に間違いだとは言えないのもまた事実なのだ。
「俺だけじゃない。城の皆も、街の衆も、もちろん瞭明もわかってるさ。」
だからこそ今までだって叱られはしても厳しく咎められることはないのだから。
「やってることは悪くない。やり方が歪んでるだけだ。」
「ゆ…歪んでるって…。」
もう少し違う言い方はないものなのだろうか。
前を行く葵瞻の早足に、林麗はなんとか小走りでついて行きながらもぶつぶつと不平を漏らした。
「…言い過ぎたな。」
ふぅ、とため息を漏らしながらも、葵瞻は優しく林麗の頭を撫でた。
「とにかく無茶はするな。お前に何かあれば皆が悲しむ。」
城の者も、街の者も。
そして何より、あいつが黙っていないだろうから。
「うん。ありがとう葵瞻。」
ようやく笑顔を見せた林麗に、終始顔をしかめていた葵瞻も表情を緩めた。
「さぁ急ぐぞ。ぐずぐずしていたら本当に瞭明が起きる。」
目が覚めて林麗がまた居なくなったと知れたら、瞭明も黙ってはいないだろう。
「うん!」
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