第二章 改革の行方

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例の如く問題の宰相が、例の如く城から抜け出したという話は既に城の誰もが知っていた。 しかしそれもいつものこと。 慌てて走り回る護衛たちを見送って、従女たちはああまたか、と苦笑を漏らすばかり。 そんな呑気な城に、葵瞻が宰相を連れて戻って来るとの連絡が来たのは、午前八時を過ぎた頃。 宰相が居ないことが発覚したのは午前五時過ぎだったので、彼女はかれこれ三時間城を離れていたことになる。 つまりはその間中彼女の護衛は走り回っていたということで。 そう考えると、なんとも彼らは哀れである。 「香來!」 皇帝の部屋へと朝食を運んでいた香來を後ろから呼び止めたのは、参謀・兼訟だ。 「聞いたかい?あの子が戻るそうだね。」 立ち止まって兼訟に礼をしてから、体を起こすと香來はにっこりと笑った。 「ええ、うかがいました。ですから今、陛下を起こしに行こうと思っていたところです。」 「そうだと思ったんだよ。私も陛下に今朝の騒動を早めに説明しなければと思ってね。ご一緒して構わないかな?」 もちろんです、と香來が微笑むと、二人は歩き始める。 「確かに、陛下の耳に入ってしまう前に参謀様から説明を受けた方が、陛下も落ち着いて行動できそうですものね。」 「ああ、そう思うんだ。特に宰相のことになると、陛下は城下町まで追いかけてしまいかねないからね。」 これは、あくまで冗談で言っている言葉のはずなのに。 なんとなく、あり得てしまいそうな気がするところがまた恐い。 だからこそこうして参謀自らが説明に同行してくれるのは、香來としてもありがたいことだった。 カラカラカラ、と二人の前を、皇帝の朝食を乗せた荷台が進む。 彼の部屋まで辿り付いて、その音はピタリと止まった。
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