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自室に戻った瞭明を、香來が迎える。
「おはようございます、陛下。」
「ああ、おはよう香來。」
そう、彼女とは挨拶すらまだ交わしていなかったのだ。
いつも香來の声かけ無しには起きることなどできない瞭明にとってみれば、それは快挙だ。
「陛下、朝食がまだでしょう?準備できております。」
温め直したばかりの湯気をあげている朝食に、瞭明は今さらながら自分の空腹を理解する。
「お転婆娘のおかげで、朝から忙しいことだ。」
苦笑混じりにそう言いながら瞭明は席につく。
「陛下が自力で起きてくださるなんて、少しは宰相様に感謝しなければなりませんね。」
ふふ、と笑いながら自分の主の前にスープを並べる香來に、瞭明は苦笑する。
「冗談じゃない。こんな目覚めは二度とごめんだ。」
朝不自然な騒々しさに目を覚ませば、宰相が城を抜け出したという騒ぎだったのだ。
さすがにそれは目覚めの頭を後ろから殴られたような気分だった。
「可愛くて仕方がないのですね、林麗様が。」
「香來!」
真っ赤になって従女を睨む瞭明に、香來はクスクスと笑みを漏らす。
「“開闢の王”は賢帝だなどと噂する者もいますが…。いったいどなたのための改革なのでしょうね?」
お喋り好きな自分の従女につん、と顔を背けて、それでも瞭明はスープを頬張る。
香來はそんな瞭明にもクスクスと笑みを浮かべながら、それでもきちんと身の回りの世話をこなしていく。
言い返す言葉がない、というのが、瞭明の心中であった。
実際に香來の言葉は瞭明の核心をついているのだから。
内乱の奇跡も、迅速な改革も、本当はたった一人の大切な人のためのものなのだから…。
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