序章 終焉の始動

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初代皇帝の栄華。 しかしそれももはや、今は昔、だ。 時は流れ、王は変わる。 他国から侵略されないという安堵と、同じことを繰り返すだけの政治。 やがて王たちは平和に酔い、更なる富と力を貪り始めた。 税をかけ、労役を課し。 それだけでは飽き足らず、年をおうごとにその内容は悪化していく。 王宮は国民の信頼を得ようと肩書きだけの自由を唱えるが、そんなものがどこにもないことは明らかだった。 国を変えなければならない。 新しい指導者をたてなければならない。 誰もの脳裏をその考えが横切り、しかし言葉にすることも叶わずに消えていく。 楚・秦両国に挟まれるこの卿国は、技術故に滅ぼされないといえども併合という脅威があった。 内乱などおこそうものならどちらかが必ず動き、交渉という名の脅迫を迫るだろう。 混乱するこの小国に、それを退けるだけの力はない。 今そうされないのは、曲がりなりにも国が安定していて、小さいなりにも軍備があるからなのだ。 併合されてしまえば絹糸衣の技術を黙秘することはかなわないだろう。 それは瞬く間に広まり、それと共に卿国の存在価値は消える。 そうなればもはや、抗う術なく滅亡へまっしぐらだ。 卿国は賢帝の政策と国民自らの力で築かれた国だ。 民たちはそういった事情に詳しく、だからこそこれほどの悪政にも耐えて来た。 今にしてみれば、それさえも王宮の思惑通りだったのかもしれない。
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