第一章 復興の音色

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「陛下、ご起床の刻限でございます。」 もう、何度目になるだろうか。 一向に返事が返ってくる気配はない。 皇帝直属の従女・香來(コウライ)は苦笑を浮かべた。 この皇帝にはもう仕えて三年がたつ。 “開闢の王”などと崇められているが、朝起きるのが酷く苦手だというとても人間らしい一面も持っているのだ。 「陛下、朝でございますよ?」 目の前には、天盤付きの大きなベット。 下げられている布は布団と同じ上質な深紅をしていて、その向こうの人物の姿を見ることはできない。 「また、起こしに伺いますね。失礼致します。」 深紅の布の向こうでは、身動き一つする気配がない。 深く眠っているのだろう。 視線を移せば、この皇帝の命で寝室に設けることになった机の上には資料の山がそのまま残されている。 昨晩“寝る”、と王がこの寝室を訪れたのは、雑務を終えた午前一時。 そこからさらに、あの資料に取りかかっていたのだろうか。 そう思うと、何度も起こしに来ることは全く苦ではないように思えてくる。 せめてもう少し、と香來は寝室を出ると、その扉をそっと閉めた。 「陛下はまだおやすみかな?」 部屋を出たのとほぼ同時に、後ろから声を掛けられた。 振り返るまでもなく、香來には声の主がわかった。 「おはようございます、参謀様。」 身を反転させて向き合うと、深く礼をした。 「ああ、おはよう香來。」 優しく返事が返ってくる。 皇帝・瞭明の作った新たな三位のうちの一つ、参謀。 香來に声をかけてきた人物は、今その役を受け持つ兼訟(ケンショウ)だ。 穏和な性格をしていて、とても物腰が柔らかい。 その上策を練らせれば一切の抜かりはないという切れ者なのだから、まさに参謀にふさわしい人選といえるだろう。 歳はなんと二十七。 内乱による新しい体制ができた今、若い臣下が多いことは致し方ないといえるが、この若さで参謀が務まるのもまた驚異だ。 そうは言っても、皇帝・瞭明も歳は二十七。 この若さで奇跡の内乱を果たし、現在皇帝の任をこなしているのだから驚かずにはいられない。
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