Ⅰ.ピエロの死と惨劇の幕開け

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Ⅰ.ピエロの死と惨劇の幕開け

元々青白かった竜也のからだは、大量の出血によりさらに蒼白になっていた。 赤くペイントされた鼻も、切り込みを入れたような目の十字も、彼自身の血に染まり、見分けがつかなくなっていた。 もう二度とひらくことのない瞼のせいで、彼の両眼は完全なる永遠の十字架を作り出していた。 白い顔にくっきりと浮かぶ二つの十字架。 舞台の上に横たわる死体〈ピエロ〉。 ぴくりとも動かない。 当たり前のように、彼は木の床に仰向けになっていた。 背景のように木の床に溶け込んでいたのだ。 声を上げる者は誰一人いない。ただただ、目の前の光景に唖然として。ある種見惚れている者も、中にはいたのかもしれないが。 どんな理由があるにしろ、声を発する者はいなかった。 観客も、舞台の上の役者たちも、裏方で照明やら放送やら、今に出番を待っていた子どもの役者たちも。 皆一様に黙っていた。 鮮血の滴る刃先をきらめかせている張本人でさえも、いや張本人だからこそ、死体と凶器とを間抜けな顔で眺めながら、やはり呆然と突っ立っていた。 すべての人々の関心が、横たわるピエロと返り血を浴びる少年とに集まっていた。皮肉なことに、棒読みの微笑ましい演技などよりも、確実に人々は関心を向けていることにまちがいはなかった。 血にまみれたピエロと、幼い少年の殺人鬼という非現実的な光景に。 しかし、いつまでも続くと思われたその光景は、突如として終わりを告げた。 一人の少女の、耳を貫くような悲鳴によって。
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