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世界が黒から白へと変わり行く中を二人は歩き続けている。薄らぐ黒は密やかに、姿を消し去っていくのだ。
「周防。何処へ向かっているのですか?」
「終わりが始まった場所さ」
「そこに何があるのですか」
周防の後についてくる桔梗はさながらアヒルの子のようであり、それを顧みる彼は彼女に微笑みを向けていた。
「何も無い。目に見えるモノはね」
「目に見えないモノはあるのですか」
桔梗の問いに周防が足を止めると、彼女も立ち止まった。暫くの沈黙が訪れる。
すっかり白くなった灰雪が音を奪うかのように静寂が周囲を支配していた。周防の吐息だけが、響く。
「あるよ。記憶に刻まれた思い出が、ね」
「周防は、それを見たいのですか」
「そうだね。終わりと共に、それが見たいのかもしれないな」
自嘲的に笑む周防が再び歩き出した。自らの後を追う桔梗を確認しながら、彼は空を見上げる。
「周防。それは私にも見えるでしょうか」
桔梗の言葉を聞いた周防が振り返ると、碧い瞳が彼を力強く射抜いた。
「見えるさ。きっとね」
柔らかに答える周防に、ずっと淡々としていた桔梗が笑顔を向ける。彼は一瞬、驚きを示したが微笑を浮かべて前を向いた。目の前には連なる道は無いが、それでも行く先は見えている。
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