operate‐2 世に無し者ら

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  「なぁ、桔梗。キミは魔女を知っているかい?」  周防が唐突に聞くと、無表情のまま桔梗は首を傾げた。彼が溜め息を漏らして俯くと、白い空から雪がはらはらと落ちてくる。それは桜が風に吹かれて舞い散るように、二人の髪を白く染め上げた。 「魔女、ですか……私の記憶にはありません」 「そう。なら、仕方が無いね」 「周防。魔女とはなんですか」  桔梗の視界が雪で埋まっていく。見る間に周防の姿が白に塗りつぶされていた。  彼女の世界が、本当に白くなりつつある。雪が降りしきる前までは、周防の色が見えていたのに。 「周防」  冷えた風が吹き荒れ、自らの声さえさらわれてしまう。彼女を支配する轟音が、耳の中で暴れ回っているかのようだった。 「周防……」  立っているのもままならないほどの横風にあおられながらも、桔梗は狂風の中を突き進む。白い視界の中に周防を見つけるために。 『こんな世界など、無と化せばいい』  憎しみに満ちた声が聞こえてきたような錯覚に陥った桔梗は足を止めて、周囲を見渡した。  その声の主が近くにいるとは思えない。しかし、その声はけたたましい轟音の中でも確かに聞こえたのだ。 「アナタは、誰ですか」  彼女の問いに答える者はいない。白い世界の中に見えるものは何も無く、自分自身の存在が曖昧になっていく。  狂おしいほどの白に、全てを奪われていくかのように。  
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