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体温を奪う豪雪を孕んだ暴風に、息苦しさを覚えて桔梗は深く息を吸った。しかし、意識は遠ざかるばかりで苦しさが消えるわけではない。
むしろ、更に更に苦しくなっていた。開いた口が冷風によって凍りつき、熱さを帯びて痛みが喉を刺す。
「すお、う……」
涙が目尻を滲ませつつも、黒い影が白を埋め尽くすかのように降りてくる。
白黒の世界。
遠退く意識。
揺れる感覚。
聞こえるのは、風が空気を裂く音だけ。僅かに見える白には、求める者の姿は見えない。
『世界が終われば、望む世界となる。ならば終わらせよう』
吹雪によって凍り付いた鼓膜は風の音さえ拾わなくなったと言うのに、誰とも知れない声だけが大きく桔梗の脳中に響き渡っていた。
何処かで聞いた事がある気もしたが、何かを考える余裕さえ今は無い。
『叡智さえなければ、良かったのだ』
狂った笑い声が木霊している。
「す、お……たす……」
桔梗は声さえも出なくなっていた。視界が完全に黒に覆われて、意識も手放す。
しかし、銅鑼(どら)が打ち鳴らされているかのような嫌悪感を伴う笑い声だけは鼓膜にこびりついて消えなかった。
再び視界が全て、黒と化す。
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