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「──う……きょ、う……ききょう。桔梗!」
心配そうな声に揺らされて、桔梗は少しずつ意識を取り戻していく。霞む視界の中に見るのは、紅く燃え上がる髪と赤銅色の瞳。
いつの間にか倒れ込んでいたらしく、見える景色は九十度傾いていた。
「すおう……」
「すまない。はぐれたことに気付くのが遅かった」
申し訳なさそうに眉を下げ、周防は桔梗に手を伸ばす。
「どれくらい経ちましたか」
彼の手を取りながら桔梗が問うと、周防は首を傾げた。あんなにも視界を埋め尽くしていた雪は止んでいる。
「多分、そんなには経ってない筈だ」
「そうですか……周防。魔女とはなんですか」
周防が桔梗の手を引いて彼女を立ち上がらせると同時に、桔梗が真直ぐに周防を見つめて質問を投げ掛けた。
「あぁ、その話の途中だったね。細かく説明すると長くなるんだが……魔女とは、不老不死に準ずる力を持つヒトに似た人種のことだ」
「ヒトとは違うのですか」
彼女の言葉に困惑した表情を返しながらも、周防は再び歩き出す。桔梗も周防の後を追い、返答を待った。
「魔女、とは言えど女だけを差す言葉ではないんだ。彼らは死を迎え入れると、また一へと戻っていく。そうやって何度も生を繰り返すんだ」
「何度も、ですか」
「そう。何度も」
悲しげに笑う周防の傍らで、桔梗は首を傾げてただ考える。何故、周防は寂しそうなのかと。
冷えた空気には、哀愁が帯びる。
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