operate‐1 世に旧る限り

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  「周防(すおう)。何故(なにゆえ)、貴方は旅をするのですか」  少女の問いに、男──周防は視線だけを向けて溜め息を漏らす。彼が吐いた息が白に染まり、寒さに凍えた。  二人の周囲を漂う空気の温度は、氷点下とはいかないまでもかなり低いだろう。  世界を覆う白は、空から降り積もる雪と灰。 「大それた理由は無い。ただ、終わりが見たいだけだ」 「終わりとはなんですか」  淡々と答えを返す周防に対し、少女は首を傾げた。周防が今一度溜め息を漏らして、空を見上げる。 「終わりは終わりだ。桔梗、キミも終わりが見たいだろう?」 「周防が見たいと言うのなら、私も終わりが見たい」  いまいち噛み合わない会話を繰り返しながらも、二人は歩を止めない。 「桔梗。僕はね、文明が滅びた理由を知っている。それはあるエゴが始まりだった」 「エゴとはなんですか」 「ボクが説明したって、キミには理解出来ないさ」 「周防がそう言うのなら、そうでしょう。私には理解出来ない」  鸚鵡(おうむ)返しの会話を続けながらも、周防は僅かに微笑んだ。 「桔梗。この世界の終焉(しゅうえん)において、キミがいたことがボクにとっての喜びだ」 「それはどういうことですか」 「いつか分かるさ。キミにもね」  少女──桔梗の頭を優しく撫でると周防は桔梗に笑いかける。桔梗は未だに首を傾げたまま、周防を見た。暫くの間、二人に沈黙が訪れる。  二人が雪を踏み締める音だけがその場に響き渡っていた。  
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