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およそ一時間半という長い時間をかけて二人はその場所に辿り着いた。その場所も白に覆われていたが、他と異なるのはヒトの姿をした雪像が何十体も横たわっていることだ。
「ここが磁場の中心のようです」
ある雪像の前に立ち、桔梗が冷めた表情で言い放つ。すると周防は彼女の側まで近付いて自嘲的な笑みを浮かべた。
「こんなことの為に、と言ったら怒られるか」
「周防。この雪像はなんですか」
桔梗がその場に座り込んで目の前に横たわる雪像に手を伸ばす。白い石像は仰向けになって宙を見ているようだった。良く見るとそれが雪像ではないことに気付く。
「オルクスだよ。機能停止したオルクスの上に雪が積もってるだけだ」
「オルクスとはなんですか」
「遥か昔、ヒトが造り出した破滅の人形……と言えばいいかな」
「ヒトの文明が滅びたのは百十五年と二ヵ月前と記憶していますが、その間ずっとこのままなんですか」
桔梗は機械的に質問を繰り返しながら、オルクスを覆う雪を払った。白雪を払っても、現われるのは白い肌。熱を帯びぬ白の中にあるどこまでも青い瞳は見開かれたまま、白い空を睨んでいる。
だらしなく開かれた薄紅色の口は今にも動きそうで、動かない。顔つきからそのオルクスが二十代前後の女性であることがわかる。
「そう。ずっとこのままだ。文明が終わったその直後から」
周防は溜め息を漏らすと、そのオルクスの目を閉じさせた。オルクスが見ていた空からは白い灰が降ってくる。しんしんとただ、世界を覆い尽くす為に。
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