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「周防。これが終わりなんですか」
白が重なって連なって、二人の体温を奪っていく。周防は桔梗に微笑みを向けると、彼女の髪に積もる雪を払いながら撫でた。
「違うさ。終わりはもっと先にある。終わりには、何も無いんだ。アイツは、そう願った」
「アイツとは誰ですか」
「世界を終わりにした奴さ」
桔梗が首を傾げると、周防は北に向かって歩き出す。慌てて立ち上がり、桔梗は周防の後を追った。
「オルクスは、何をしたのですか」
「文明を壊したんだ」
「何故、壊したんですか」
二人は歩き続ける。
宵の刻が着々と近付きながらも、寒さに煽られながらも。
迫りくる夜闇が世界を白から黒へと化していた。深く深く、暗い黒に。
「オルクスには心が無かった。だから、ヒトは心を造ってオルクスに与える……けれど、それは正常には動かなかった」
「それは、どういうことですか」
薄闇に染まる周防の表情が翳(かげ)るのをジッと見据える桔梗に、彼は苦笑を漏らす。
「壊れて、しまったんだよ。彼らの心が……いや、故意に壊されたと言うべきかな。彼らは心を求めて暴れ回った」
「それで文明を壊したんですか」
「そうだよ。最終的に文明を終わらせたのはアイツだけれど」
桔梗は瞬きを繰り返しながら、周防の言葉を聞いていた。
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