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「……あのさ、マスター。少しくらい営業の心配したら?」
確かに、僕は今までにここに来た客を見たことがなかった。
「いいんだよ、年寄りの趣味なんだから。それより、いつ頃の話なんだ」
真っ白なあご髭を触りながら、マスターが言った。
「そうだな、高校生の時だから……十年前くらいの話だよ。僕も年取ったな……」
二人は笑った。
「別になんてことない話なんだ。とある男の子が、とある女の子に恋をした。ただそれだけ。……平凡だろ?」
僕は言った。
「そういうのはいいから。ほら、早く始めな」
しびれを切らしたのか、マスターが僕を催促する。
「そうだね。じゃ、始めるとしますか──」
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