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靴の記憶
ある旅人が居た
彼には記憶が無い
自分は何をして来たのか
本当に旅をしてきていたのか
それすら記憶が無かった
近くに居た老人が私は旅人だと言う
証拠もないのに
証明も出来ないくせに
彼は言った
証拠ならあるじゃないかと
首を捻る私に老人は言葉を続ける
靴を見てみな
貴方の旅全てを刻み続けた軌跡がある
傷をごらん
縁をごらん
いつでも貴方と共に旅をした相棒だ
相棒を見な
ほら
相棒さえも疑うのかい?
私は靴を手に取った
ボロボロで 土まみれ
すり減ったヘコミを指で擦る
あぁ、
あぁ、
全てはここにあったんだ
私には記憶が無い
有るのは
私の記憶を刻んだ一足の靴
ただ一つ
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