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自転車に乗っていて
目についた看板を覚えて帰った
なんと読むのかはわからないが
彼にはその海の情景‐絵‐がはっきり見えた。
夜上海
彼は頭の中で反芻した。
夜海上
それでいい、そう思った。
真っ暗な夜の海の上に浮いている。
手足を投げ出して、しかしスーツを着たままだ。
白いスーツにピンク色のネクタイ、少し赤紫のグラデーションが入っているそのネクタイも彼と共に波に揺られる。
寒いとかは、ない。
その浮いている様を、見ている彼もいた。まるで彼自身の映像を彼が見ているように、
実際、昔発案したジャケットはとても似通っていた。
いや、昔発案したジャケットに、この映像‐絵‐が似ているのだ、彼は気付いていた。
今日も何も収穫はなく、同意を感じもしない意見に相槌を打って時間を潰し、工場から帰るところだ。
確かに従業員に悪気のある奴はいないし彼は居心地よく過ごしていた。
しかしその居心地の良さに感謝するきはおきなかった。
「風が異常に、きもちいいな」それだけ感じた。帰途はいつも自由な心地だったから、家までの道を彼は好んでいた。
帰り道に思い出すことは毎日少しずつ違う。
しかし大した意味も持たないように本当は感じていることを彼は知っていた。
そしてそれを強く否定するなり意味を持たせてくれる誰かを待っていることも、…その誰かが「彼自身」でなければならないことも、知っていた。
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