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ふと彼は目を覚ました。
いつもと同じように昼もとうに過ぎた午後だ。
気だるいはずなのに、外の光は妙にハイだった。
彼は思考をめぐらさずに、感覚だけで行動をした。
たまに訪れる森に向かっていた。
向かう途中、気付いた。
夜の上海、なのだろうに、自分が夜の上海の「海」を感じていることに。
(どうしても海でなければならないのか、)
それならば、やはり海に向かわねばならないだろう、そう彼は諦めとも決意ともとれる気持ちに落ち着いた。
ハイな明かりは暮れ、夕闇のオレンジと薄紫と藍色がグレーにまじりあうような空、を厳かに見つめながら彼は歩いた。
かつて考えたジャケットはもう必要なくなってしまった。
今思い浮かべる海に浮かぶスーツを着た自分も、同じく、ジャケットとしてはこの世に産み出されないはずだ。
何故なら彼はもう作品を彼の名で産み出すことは無さそうだからだった。
カセットテープに入っていた時代の彼は存在しないし、現存する彼は音楽を奏でていない。
しかし、
それを飲み下すことができないのだ。
何か答えがあるならば、
この「答えが出ない」というループを壊すヒントがあるならば、
それは夜海上にあるのだろう、
…この思考さえも、
ループでなければ。
鱗雲が眼前に広がり、
彼は森に到着した。
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