カフェオレ

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横浜の小さなアパートに越して来て、半月が経った。大学卒業を間近に控えたままだったが引っ越しを決行してから、ミラの生活はガラリと変わった。 ミラの生まれは仙台だったから、茨城県にある国立大学に進学するために、彼女は18歳から一人暮らしをしていた。 一人暮らしももう5年目に入る頃、大学があった茨城の田舎から出て、今度は都心にできるだけアクセスがいいようにと、ミラは東横線沿いに狙いを定めて住居を決めた。 引っ越した後は、とても慌しい日々だった。新しいバイト先を決めるのに片っ端から求人雑誌をひっくり返したし、貯蓄用の銀行口座を開いたり、新しい家具や生活用品の購入で都内の店を駆け回らなくてはならなかったからだ。 横浜に越したとは言っても、山下公園やランドマークタワーや中華街のある瀟洒な場所ではなく、港北区という、どちらかというと海ではなくて山のようなところだった。横浜の海風を期待していたミラは落胆したが、早々落ち込んではいられない。 なぜなら、ミラの手にはいくつもの夢があったからだ。 大学の卒業も決まって、就職活動も死ぬほどして、大手の製薬会社に内定をもらったのに、それも蹴散らしてきてしまった。安定という生き方を捨ててまで、ミラにはしたいことがあった。 ミラは小さな城になったアパートの部屋で、今まさに夢を膨らませていたところだった。
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