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そして、早速今日からミラのバイトが始まる。ミラが決めた仕事先は、南青山にあるイタリアンレストラン『ルリョ』だ。
以前には雑誌にも紹介されたりと、隠れ家的な場所としてなかなか名の知れたお店だったらしい。ミラが勤務先をここに決めた理由はすごく単純だった。
募集広告に、
『自分ではない誰かになれる瞬間――。
優雅な音楽をバックに、素敵な時間を演出する一員になりませんか』
とあったからだった。
初めての東京での一人暮らし。
そして、南青山の一等地にあるレストラン。
「客層もきっとすごくレベルが高いんだろうし、私が出会いたいような人たちに声をかけてもらうチャンスがあるかもしれない。優雅で上質な時間をそんな人たちと共有していたら、あたしも自然とそんな人間に近づけるかもしれないよね」
ミラはそう思いながら、風を切って自転車に乗った。横浜の海風はどこか遠くの南方から流れて来ているのだろうか。
「あたし、早くここではないどこかへ行きたい。きっと、いつか行く。もっと、もっと、あたしは誰かに注目されていたいんだ、きっと。」
自転車のペダルを漕ぐ足は何故か力強くなり、ミラはぐんぐん駅に向かっていく。
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