★走る

3/15
前へ
/204ページ
次へ
アイツがいなければ、この場所に来ることはなかった。 拓海のことを最低のヤツだと憎んだままだった。 『ありがとう…』 いつも私のこと、一番に考えてくれてたんだよね。 自分の気持ちよりも、私の気持ちを大切にしてくれてた。 そんなあなたを、私は何も知らずただただ憎んでた。 ごめんね …ありがとう 『これ、隆二君から預かって、代わりにお返しに来ました』 アイツが持ってきてくれたスケッチブックと携帯を、拓海の母親のゆかりさんに差し出す。 それを見てニコッと微笑むと 「二つとも、あなたが持っていてくれない?」 と言った。 『えっ?で、でもこれ、拓海の形見で、ゆかりさんが持っていた方が…』 「拓海はきっと、あなたに持っていて欲しいと思うの」 『ゆかりさん…』 「拓海とって、春香ちゃんはかけがえのない大切な人だもの。今でも変わらないわ」 ゆかりさんが、自分の手を私の手に重ねながら言う。 温かい、優しい手。
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1729人が本棚に入れています
本棚に追加